2023.12.31

2020年コロナ禍中にカセットテープとして制作した作品「流線体エキストラ」をデジタル音源化することにした。
この作品は一人のプロデューサーの提案によって、コロナ以前によく弾き語りしていた曲をカタチにするという目的で制作することになったのだが、結果として聴くに耐えない最大の駄作となる。なぜ音源化したのか、全く納得理解できないままだった。

このプロデューサーとの出会いは20年程遡る2002年頃。
某有名ビジュアル系レーベルで腕を振るった彼は、その後ヒップホップアーティストやジャーマンプログレバンドなど、売れる匂いを辿り、多数のマネジメントをこなしている様子だった。

当時、電子的かつ抽象的なビートでフロアを充満させることに没頭し、大箱小箱問わず積極的にあちこちでDJしていた私に、彼が担当するバンドのリミックスを頼まれたことが関係を持つ始まりだった。

無事その仕事を終え、音源はレコード化され世に出回りそれなりの成果は出たが、その過程の中で指針と感性がフィットしない事がお互いにわかり、自然と疎遠となっていったが、こんなことはよくあることで特に気にしてはなかった。

それからしばらくすると、彼は周囲の音楽関係者の前からも姿を消していたとがわかった。アーティストやレーベルとトラブルがあったと人伝に聞いたが真相は知らないし、どうでもよかった。

コロナ禍中、私は他のミュージシャン同様に、ライブ演奏や音源を動画アップし続ける日々を送っていた。
見えない恐怖を世界中が抱えながらのロックダウンを目の当たりに、音楽の無力さと尊さを行ったり来たりする日々。プライベートにおいては離婚にまで落とし込まれ、子供からも引き裂かれた。家とスタジオを手放した頃、私の活動に対し執念にも似た、あくまでも応援のスタンスで綴られた文面のメールが複数あることに気付く。

内容は、動画に対する事細かな感想と、これまでの作品の全てを分析し作家の深層を理解するような、孤独な戦いの中に勇気が戻ってくるような、不思議な感覚を覚える文面が延々と繰り返され、打ち砕かれそうな心に灯を灯す言葉たちが綴ってあった。
半年ほどのやり取りが続き、ある日のメッセージの内容からその差出人は彼だと気がついた。一時の気分を回復しつつあった私は、彼との再開を約束する。

数週間後、東京で再開。
彼は相変わらずだった。会うなりすぐ執拗に曲を音源化し販売することを提案してきたが、すぐ断った。
この曲たちはコロナ以前に書いたものばかりで世界はすでに変わっていたし、それよりも何も、まだどこかで都会生活への未練が音楽に残存していて中途半端だった。この時すでに地方暮らしの良さに夢中だった私は、この曲たちをうまく歌うことができなくなっていた。
しかし彼は、過去なら尚更、作品化し葬るべきと言って聞かない。
気のすすまない提案だが一理ある意見に対し、その後も幾度も話し合った。メールのやり取りの際に勇気づけられたことに大きな感謝があり、応えたい気持ちがあった。今思えば、再開を決めた時からすでにもう彼の船に乗せられていたんだろうと思う。

文化庁の助成金を得て作品化する運びになり、締め切りへ向かって邁進することになる。とにかくデモを渡した。「音は悪くても雑でも繊細で強ければいい。」

そのほうが受けると言った。
彼の売り先はそうだという。面白い。今までにない作り方だ。従ってやってみようと思った。
しかし、何度デモを渡してもやるほどに音楽が一致せず、話も二転三転する。一向に方向性が定まらず鬱憤が溜まる一方。昔リミックス仕事をした時の合わない感覚を思い出していた。

未完のまま曲の納品日を迎える。
自分の作品は全て自分の責任。
彼もきっと同じ気持ちだと思っていた。彼の中では完成されていたのだろうか。この作品を世に出すことに納得いかないことで対立、私は流通させることを放棄した。後日彼からテープが送り返され、そしてまた私の前から姿を消した。あの人らしいな。と思った。

それからしばらく経った2022年7月4日
彼のパートナーを名乗る女性からのメールで彼の死が告げられる。
再開した際、帰り際に現れて見送ってくれたあの女性だった。突然の病死と書いてあった。
そして大変仲が良かったと察する、とも。
何度かメッセージをやりとりさせてもらう中で、作品未完成の件も話すことができたし、少しだけだが彼の最後を知る事ができて良かった。
そして私はこのテープを自分で販売をすることにした。

あの頃に話した沢山の事を思い出す。
人は人無しでは生きれない。そのすべての行動は自分と他人のためを思ってお互いの利益と共に成立している。確かに彼とは作品を作ることに関しては全く合わなかったが、友人としてはとても楽しく、自分とは別の興味深い視点や感性を持っていて話すのが楽しかった。ひとまわり以上も年上だったが、喧嘩もさせてもらえた。苛立つことばかりだったはずが、蓋を開けてみたら感謝しかなかった。

己の過去の清算と彼の供養を伴い、作品は唯一無二の駄作となった。それを象徴するカセットテープはまだ手元にあるが、もう再生することはない。
彼の肉体と共に回転を停止した今、デジタルへ変換し半永久的となることを望む。

世界はゆっくりと変貌を遂げ、時として急速に変化しようと争う。その大きなきっかけの一つとなったコロナとは一体何だったのか。この頃を振り返ると、人は何と脆く、怯えることで攻撃行動に出る動物に過ぎないことを実感した。自己への集中力を無くすと誰かを攻撃し、己を保とうとする側面がある。ほとんどの社会問題は、その文化と幼少時期の環境によって形成され、後に思想、集合化され、そして分断が始まる。どの時代の過酷といわれる歴史の状況下でも同じような事が起こってきたのだ。

現代において、音楽や芸術でこの大きな変化の最中、人々の溝を埋め、足元を補強するアプローチ方法はあるのか。
それとも烏滸がましく傲慢となるのか。完全なる敗北なのか。私には答えを見つけることは永遠にできないだろう。だからせめて、身の回りの関わりと愛と表現する力を信じ、前向きでいたいと願うのだが、幸せが歪み、当たり前にのぼせ切り、便利と引き換え失った尊厳を回復させ、どう実行し続けていくのが正解なのか。
あの頃の同じように悩み喘ぐ美しき仲間をようにたくさん。そしてまた指針を見据えさせてほしい。

2024年。今より少しでも良い方向へ向かうことを願って。

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